2017年7月8日土曜日

負のスパイラルと呼ぶ

 先日、日本とEUとの経済連携協定(EPA)が大枠で合意に達したことが報じられました。
 自動車や自動車部品、電子機器、日本酒などの品目で、現在日本からEUに輸出する際にかかっている関税が、即時もしくは数年以内に順次撤廃されるとのことで、自動車業界などを中心に、全世界のGDPの3割を占める日本とEU諸国の巨大経済圏が誕生することに歓迎の声が上がっているそうです。
 しかし一方で、EUから日本に輸出されるワインやチーズ、豚肉、パスタなども、現在は日本政府により課せられている関税が、即時撤廃もしくは段階的に引き下げられます。
 毎日新聞などによると、ワインは1本最大93円かかっている関税が即時撤廃。チーズは新たに現行とは別の低関税枠を新設。豚肉は1キロ当たり482円の関税が撤廃されます。当然ながら国内の酪農家や農業者などには大きな影響が予想され、政府はチーズの原料となる生乳の生産者への補給金積み増しなど、酪農や畜産、林業などへの支援を強化する考えを示しています。


 わしは親戚に酪農家がおり、そう考えると本当に悩ましくはありますが、EPA、すなわち自由貿易の推進は今後も世界の潮流として進んでいく、進んでいかざるを得ないと思います。イギリスのEU脱退や、アメリカのトランプ大統領の誕生など、自由貿易に反対する勢力が先進国でも伸長しては来ていますが、まだまだ経済的に貧しい国々が多い中で、自国の天然資源とか農林水産物、安い人件費を生かした軽工業製品を先進国に輸出し、富を得ようとする動きはとどめようがないからです。
 同時に、国内の農林水産業を保護するのも当然ですが、こうした保護策が選挙対策や景気対策のバラ撒きに陥ってはならず、真に第一次産業の競争力を高める目的で、スクラップアンドビルドの覚悟をもって取り組まねばならないのは、ウルグアイラウンド対策費で全国各地に観光牧場や日帰り温泉が林立し、共倒れしたことの教訓でもあります。

 ただ、わしがこうしたこと以上に悩ましく思うのは、三重県も含め、やはり各道府県、全国各地の市町村で競うように行われている「新規就農者確保対策」です。第一次産業は従事者の高齢化と減少が止まりません。このペースだと、おそらくあと十数年で個人経営の農家や漁家はほとんど姿を消すと予想されています。このため、国や地方自治体では新規の就労者をこぞって募集しており、インターンシップ制度の創設や、研修の充実、農地、資金の貸付制度の充実などに取り組んでいます。近年は地方創生ブームに乗って、田舎暮らしにあこがれるU・Iターン者を第一次産業に就業させる動きも盛んになっています。

 しかし、こうした新規就農(就漁、就林も本質は同じこと)は、ではたとえば今回のEPAとどう関係するのでしょうか。
 たとえば北海道で酪農をやってみたい人がいる。北海道庁や外郭団体の北海道農業公社は専用のホームページを作り、相談や支援制度も充実させ、「北海道で農業を始めよう」と呼びかけています。
 でも、その一方で、本場のEUのチーズが格安で国内市場に流通し、ワインも豚肉もEU産が値下がりしたら、常識的に考えて道内の農業者の経営はますます苦しくなります。就農を促進しているサイドは、この事態をどう考え、どう説明しているのでしょうか。今日時点で、北海道農業担い手支援センターのサイト 北海道DE農業をはじめるサイト には何らの説明もありません。
 
 日本有数のワイン産地の山梨県(庁)のサイト 就農支援制度~農業を始める人を応援します~ を見てもコメントはありません。よく見るとサイトの更新そのものが、平成25年10月から止まったままです。
 このサイト内には、就農へ向けて関係機関から様々な支援が受けられる「認定就農者」になるために「就農計画」を作りましょう、みたいな記載があります。しかし、もし今、山梨県で新規就農しようと考えている人がいたとして、まず真っ先に不安に感じるのはEPAがこれから自分の農業にどうかかわって来るのかということでしょう。
 山梨農業の将来があまりに不透明では、いくら支援策が充実し、支援者に熱意があっても、就農することはリスクが高すぎるからです。この疑問に寄り添うような、何らかの見解の表明があってもいいのではないかと思うのです。でないと、就農者はこれから末永く、誇りをもって仕事をしていけるかが不安なはずだからです。

 国と地方のやることが「ちぐはぐ」だとは何事に限らずよく言われますが、これなど典型的な例に思えます。国は(勝手に)EPAを結び、その代償として農家を支援すると言う。地方自治体はそれにはまったくコメントも、反応もなく、ただただひたすら新規就農者確保という既定路線を驀進し続ける。両者に一切接点はない。
 そんな仕事に、自分の子どもを就かそうと思うかなあ。結局、国も地方も本気じゃないのではないかなあ。

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